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樋口公実子;柘榴姫社交倶楽部

私は樋口公実子氏の絵が好きです。きっかけは、テオブロマのショップに飾ってあった絵です。一目見て、とても素敵だと思いました。その後、浅草のフルーツパーラーで偶然に樋上氏のイラストが飾られているのを目にしたりして、さらに印象深く感じるようになりました。

そんな樋上氏の原画展が表参道で開かれていることを知り、オープン初日に行ってきました。
樋上公実子原画展
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樋上公実子『バンビと小鳥』原画展
2016年11月28日(月)~12月10日(土)
11:00~19:00、土曜日は17:00まで、日曜休み
Pinpoint Gallery(表参道駅から徒歩3分)
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この度ポプラ社より刊行された新作は、樋上氏が初めて文と絵を手がけた絵本なんだそうです。

そのむすめは、バンビとよばれていました。いつも、美しい鹿皮のスカートをはいていたからです。むすめは、一羽の白い小鳥をこよなく愛していました。バンビと小鳥がともにすごした春、夏、秋、冬。幸福な時間のおわりに、バンビを待っていたものは…?

額装された作品は、樋上氏ならではのやさしいタッチと色遣いで、今回はスイーツがテーマではないのですが、それでもおいしそう。どうしても、私の中ではテオブロマの印象が強くて、口の中に甘い気配を感じてしまうのですが。

原画展の初日ということもあって、樋上氏ご本人がお見えになってました。さすがチョコレートにもお詳しくて、思いがけずチョコレート話に花を咲かせてしまいました。
漫画「失恋ショコラティエ」の水城せとな氏との合作「柘榴姫社交倶楽部」にサインを頂きました。

おとぎ話でよく知られる白雪姫や人魚姫たちが、今の時代のちょっと辛口な女達のようにアレンジされて甦ります。目が覚めて、「聞いてた話と違う……」とつぶやくいばら姫とかね。笑わずにはいられません。樋上氏の素敵なイラストがたくさん載っているので、イメージが広がります。

パリのチョコレート

珍しくチョコレートではなく、レシピ本を手にしました。
風鳴舎発行の多田千香子著のパリのチョコレート レシピ帖です。

まず装丁が素敵。私の大好きな水浅葱色をバックに木苺のチョコレートケーキです。なんておいしそう!本棚で埋もれてしまうのはもったいないので、こういうのは部屋に飾りましょうね。

お菓子作りの初心者にも優しい構成です。
作り方はもちろん道具の説明からラッピングの工夫までわかりやすくておしゃれ写真がいっぱい。パリの空気を伝えるスナップショットどれも素敵です。まるで絵本のように楽しめます。

食べることが専門で作る方はさっぱりなのですが、この本を手にすると、私でもやる気が出てしまいました。だって、ほんの少しの手間でチョコレートがさらにおいしく食べられそうなヒントがたくさん載っていますから。

今日のオヤツはチョコサンドに決まりです。

小川洋子;夜明けの縁をさ迷う人々

本屋大賞「博士の愛した数式」や谷崎潤一郎賞「ミーナの行進」の受賞作家、小川洋子の短編集です。独特の静かで繊細なタッチは長編作品とそのままに、この世界に存在しているのか定かではないあやふやな者達をミステリアスに描きます。

「曲芸と野球」は、河川敷にある野球場の三塁ベースから数メートル先で椅子を組み立てた上で逆立ちの練習をする女曲芸師と野球少年の話。少年の父は整形外科医なので、少年は曲芸師の体がいつも傷だらけなのを知っている。ある日、少年は野球場で三振をした。尻餅の音と同時に、もっと不気味な音が飛び込んできたのだった。

「パラソルチョコレート」はベビーシッターさんの家で唯一出入りを禁じられている部屋にあるチェス盤の不思議を描いたもの。主人公の女の子は、日曜日の午後、必ずシッターさんと喫茶店に行くのが習慣だった。ある日ストーブの火を消し忘れているのに気付いて、シッターさんの代わりに女の子が家に戻ると、そこにはパラソルチョコレートを手にした老人がいた。

どれも、何かを喪失した話が続きます。そして、どれも鮮明な印象のキャラクターが揃っているため、まるで絵画のように作品世界を楽しめます。磯良一氏のスクラッチ技法のイラストも、小川氏の静かな文体にとても馴染んでいて素敵です。

鳴海章;もう一度、逢いたい

江戸川乱歩賞受賞作家の鳴海章(なるみしょう)は航空小説の書き手として知られていますが、「もう一度、逢いたい」は航空色は幾分薄く、幽霊の話を集めた短編集です。唯一「茅蝉が鳴いている」ではパイロット養成指導員の話として航空機の世界が広がっていました。確かに、他の短編よりも描写が細かく、そこに作家の航空機「好き」を伺うことができます。

「チョコレート・クッキー」も当然幽霊の話。
深夜のコンビニエンスストアでバイトをしている主人公が、居眠りから覚めて店内を監視するカメラのモニターをみると、黒いコートの髪の長い女性がお菓子のコーナーに立っていた。目を凝らすが、モニターの画像が粗くて顔ははっきりと見えない。そのうちにまた眠気に襲われ、次に目覚めたときには女性の姿はなかった。静まり返る店内を点検に回ると、お菓子コーナーの床にコアラが焼きつけてあるチョコレート・クッキーが落ちていたのでした。

幽霊が出てくる短編を集めたものだから、5編目のこの作品ともなると、読んでいる途中で「あぁ、この人物が幽霊だな」なんて水戸黄門の悪人当てみたいになってきます。