小川洋子;夜明けの縁をさ迷う人々

本屋大賞「博士の愛した数式」や谷崎潤一郎賞「ミーナの行進」の受賞作家、小川洋子の短編集です。独特の静かで繊細なタッチは長編作品とそのままに、この世界に存在しているのか定かではないあやふやな者達をミステリアスに描きます。

「曲芸と野球」は、河川敷にある野球場の三塁ベースから数メートル先で椅子を組み立てた上で逆立ちの練習をする女曲芸師と野球少年の話。少年の父は整形外科医なので、少年は曲芸師の体がいつも傷だらけなのを知っている。ある日、少年は野球場で三振をした。尻餅の音と同時に、もっと不気味な音が飛び込んできたのだった。

「パラソルチョコレート」はベビーシッターさんの家で唯一出入りを禁じられている部屋にあるチェス盤の不思議を描いたもの。主人公の女の子は、日曜日の午後、必ずシッターさんと喫茶店に行くのが習慣だった。ある日ストーブの火を消し忘れているのに気付いて、シッターさんの代わりに女の子が家に戻ると、そこにはパラソルチョコレートを手にした老人がいた。

どれも、何かを喪失した話が続きます。そして、どれも鮮明な印象のキャラクターが揃っているため、まるで絵画のように作品世界を楽しめます。磯良一氏のスクラッチ技法のイラストも、小川氏の静かな文体にとても馴染んでいて素敵です。

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